岡田純さんは、完璧である。文章の校正、レイアウトその他印刷業のプロとしての仕事振りは当然ながら、イラストを描き、旅をし、はたまたアリーナ竣工式における司会まで、完璧にこなす。
シネマザウルスの打ち合わせにおけるブレインストーミングが、ただの映画好きが延々しゃべり合うだけのだらだらとしたおしゃべりの場になりそうなところを極限で救ったのは、ズバリ彼女である。彼女がいなければ、知識だけは豊富なT川原氏や、面白いことしか興味がない旧姓I瀬氏の暴走を誰も止められなかったであろう。英国のロックグループ“XTC”のアンディ・パートリッジが言っていた「プロデューサーを逆にプロデュースする」というのは、彼女のためにあるような名言である。
ただし仕事が完璧な人物ならばどこの職場にも一人や二人はいるものだ。彼女が特異なのは、それに加え、人同士のつながりが円滑にいくような雰囲気を上手に醸し出すことに顕著なように、人としての魅力に溢れていることだ。そして時折見せる、可憐な少女のような可愛らしさ、可憐さ、優しさ。
ここまで揃った人物には、なかなか巡り合えない。
いや、巡り合えないどころか、周りにはいない。そう考えると、結論は一つ。彼女は地球の人間ではないということだ。
合唱に長けているのも、地球人の発声方法を習得するための技術ではなかったか。
また、ユーミンが好きだというのもうなずける。ユーミンは、その活躍のスーパーマルチ性から、天才を超え、宇宙人だといわれているからだ。
久々に会ったときの会話の内容が、我々地球人ならば時候の挨拶やお互いの体調を尋ねるものに対し、彼女の場合はいきなり「最近、何、観た?」と映画の話題から入るというのも、最初は面食らったが宇宙人であれば納得できる。今度、保健所職員という立場を利用して、無理やり血液採取し鑑定にかけようかと思ったが、地方公務員法に抵触し懲戒免職になり退職金がパーになると36型プラズマTVが買えなくなるのでやめよう。
そこで気になるのが彼女の今後である。彼女が多度へ移住するというのなら、そこに宇宙基地があるに違いない。中央印刷の建物近辺ではUFOの目撃情報が絶えないし、ついこの間、中央印刷のすぐ傍にある鵜方の「酒ビッグ」へ「のどごし生」を買いに行ったところ、店員がどう見ても火星人であった。するとやはり多度には宇宙基地があるのではないか。
多度神社の近くらしいが、古来、日本の神話とUFO物語とは切っても切り離せない関係にあることも、この推論の信憑性を高める一方である。
どうやら、銀河の遥か遠くから、映画文化の絶滅の危機にあった志摩の地を救いに来たように、今度は北勢地域を救いに行くのであろう。
頑張れ、岡田純。我々はあなたを忘れない。 |
慶事であるべきこの日に、少しばかり暗い文章になることを、まず、お詫び申し上げます。
岡田純さんという、印象的で不思議で頼りがいがあり笑顔が素敵な魅力的な女性のことを考えるとき、私はいつもある光景を想像する。
彼女はジャーナリスである。スポーツジャーナリストの増島みどり氏を想起させる、聡明で切り口の鋭い、同時に謙虚さを忘れない文章で私たちを魅了する。そして今、彼女は小さな町工場で取材している。
インタビューを受けているのは、ブラジル人の若者だ。彼女は、自在に彼の母国語を操り、やさしく問いかけていく。
彼は最低賃金も守られているかどうか分からない過酷な労働条件の中、わずかな休憩時間に重い口を開いてくれた。純さんは尋ねる、祖国にはいつ帰るのかと。
「ちょうど今週末に。8月に4日間だけ休みをもらえるけど、往復にまる2日かかるから、2日だけ家族といられる。お袋の作った料理をたっぷり食べて5人の弟、妹たちと遊んで過ごすつもりだ」
そしてその週末、彼女は新聞の三面記事であるニュースを目にする。それは小さなニュースだったけれど、彼女には、十分、衝撃的だった。記事はこう伝える。ブラジル人の若者5人を含む満員の乗客を乗せた空港行きのバスが、折からの突風で横転、乗客の多くが重症を負った、詳細は不明。生存者の数は分からないという。
もしも私だったらどうするだろう。あるいは「私たち」だったら。
彼女はきっとこうするだろう。まず彼の雇われていた町工場の社長のところへ駆けつけ、ブラジルの実家の連絡先を聞きだす。そしてその後、病院へ駆けつけ容態を確認し、そして・・・そして最後には祈る。
やがて神は彼と彼女の方を微笑む。彼は救われた。彼の仲間たちは全員、一命を取り留めたのだ。彼女はそこで感激のあまり泣き崩れるのではなく、冷静にブラジルへ国際電話をかけ、一言、こう告げる。
「心配ありませんよ、ええ、何も心配ありません。帰るのが少しだけ遅れるだけです」
そして家路につくとき、彼女は、空を見上げ、人知れず涙をこぼす。神様、ありがとう。
もちろん、これは現実の出来事でなく、すべて私の空想である。でもきっと、彼女のその真摯な人柄、生き様に対し、今回、神様は最高の贈り物を彼女に贈呈したのだと私は思う。だから誰より幸せになれるのだと信じる。
純さん、ご結婚おめでとう。生活が落ち着いたら、またあのマジックのような、聡明で切り口の鋭い、同時に謙虚さを忘れない文章を読ませてください。
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夢オチは禁じ手であり好きでないが、こんな岡田純氏がいたら面白いだろうなあと思って、好き勝手に展開した。夢の話なので、失礼は御容赦願いたい。
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岡田純は、焦っていた。ローマの休日に買った車が、道で、電柱に激突してしまったのだ。焦っていたのは、事故のせいでなく、12人の怒れる男が、こちらへ突進してきたためだ。音を聞きつけたジプシーが、物盗りにやってきたらしい。「何なの、あいつら・・・」
岡田はつぶやき、昼間になれば太陽がいっぱいになるであろう広場へ走り出した。幸い、体はどこも痛くない。後ろから声がする、「シェーン、カムバック!」誰がシェーンじゃ!
広場でうろうろしていると、ジプシーと間違えられ、警察官に質問された。岡田は再度、焦り、しどろもどろに「あ、うん・・・」としか答えられなかった。理由なき反抗をしてブチ込まれるよりは、何とかごまかしてしまいたいが・・・
ちょうどそこへ、ブロンディというニックネームの現地ガイドが通りかかり(まあ、現実では、こんなにグッドタイミングなのは珍しいが)、彼女のアパートへ連れて行ってもらった。
彼女には一人息子がいた。映画の演出家の先生だという。今月最後のショーが終わったばかりだという彼が、新しい映画の楽園を作りたいという自身の将来の夢を語りながら、油で揚げた緑のトマトなど、ちょっとした料理を作ってくれた。お熱いのがお好きですか、冷めた方がいいですか?そんな気遣いを見せてくれて岡田は嬉しくなった。
彼女はお礼に、世界を旅した話を聞かせた。パリの話、カサブランカのこと、東京物語・・・さすがに、恋に落ちて、昼下がりの情事があったかどうかには、触れなかった。
午前2時ごろ、ようやくベッドに就いた。が、眠れない。無理に眠ろうとしても眠れない。そこで岡田は羊を数えることにした。羊が1匹、羊が2匹・・・しかし出てくる羊たちは鳴いてくれない。羊たちの沈黙のため、羊らしくなく、かえって目が冴えてしまった。
そこで今度は、何でもいいから、数の多いものを数えることにした。そこで思いついたのが、(やはり岡田は日本人である)忠臣蔵の登場人物を一人一人思い出す作業だった。
そうこうしているうちに、いつの間にか爆睡していた。
目が覚める、すっかり疲れの取れた岡田は、元の情熱的な彼女に戻っていた。危ないところを救ってくれたブロンディはまるでエンジェルのように思えた。そうだ、この天使にラブソングを捧げよう・・・持参していたメモに、彼女の顔をスケッチしようと思った。しかし、何ということだ、顔が思い出せない。まるで顔のない天使だ。岡田はペンで自分の顔をチクリと刺した。
あれ、この痛み、なんだろう。懐かしい痛さ。そうだ、青春の痛みに似ている。岡田はなんだか嬉しくなってしまった。これまで忘れていた、素敵なカンジ、たとえば士官と紳士の微妙な関係のような・・・違うわ、何言ってるの、そうだ、恋人たちの予感のような感覚。これ、これだわ!生きるって素晴らしい!!岡田は鼻歌を歌いながら、急いで階段を降り、二人が朝食をとっている台所へ駆けつけた。I'm singing in the rain・・・
窓から外を見ると、あいにく大雨だった。昨日は晴れて、夢の野原に見えた公園など、まるで泥の河だ。天気予報によると、明日も大荒れらしい。岡田は朝食のチップスをかじりながら言った。
まあいいか、明日は明日が吹くのよ。しばらくは好意に甘えて、ここでチップスをご馳走になるわ。
そして明後日には飛行機で日本へ帰るのだ。あと2日。さよなら、ローマ。さよなら、演出家の先生。チップス、おいしいかったわ。
チップス、先生、さようなら。
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今日は、パソコン教室。
教室へ向かう車を運転しながら「あ、先生に純さんのことを聞こう・・・。」と頭の中に忘れないようにと念を押しておく。
「おはようございます。」パソコンの電源のスイッチをONさせながらしばらくの間、いろんな話にとぶ。
「あっ先生、純さん結婚されるんですよね。」と私が言うと、T先生は、
「えっ!!」
「あのー、純さん結婚されるんですよね。年賀状に書いてありましたよ。」
「えー、年賀状には、一月に退職するって書いてあっただけやよー。」
ちょっと私、あれ・・・・・・よかったのかなぁと少し不安になる。でも、T先生は知っているばかりと・・・。T先生にいろいろ話を聞こうと思っていたのに・・・。
T先生は本棚の高いところから、がばぁーっとたくさんの今年の年賀状を出して来た。一枚一枚しらべながら・・・。「そうそう、今年の一月の中央印刷のあいさつの中に純ちゃんの名前が書いてなくてなぁ」と、思い出しながら確かめている。「そうそう去年の十二月に中央印刷の求人募集が入っていて、あれって思ったんです。」と私。一枚の年賀はがきを手に取りT先生は食い入るように「一月に退職します。って書いてあるだけや。」私も先生の年賀状をのぞきこんだ。T先生、少し動揺している。なんだか、一生懸命考えているけど考えがまとまらないような。純さんと自分の近況を照らし合わせながら話を少しした。
「ちょっと、外へ一服吸ってくるわ。」T先生は、タバコを指に挟みながらドアの外の踊り場に出て行った。私は、そのすきにT先生に届いた年賀状を何度も何度も読み返してみた。行間に何か書かれているかもしれない。純さんが書こうとしたことが何かあるかも・・・。
T先生がいない間に何度も読み返した。だけど、結局、私には何も分からなかった。
しばらくすると、T先生が戻ってきた。
「踊場から見える景色は
ニューシネマパラダイスみたいなんさなぁー。」
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